4 まとめと提案

採掘の技術、使用している機械や設備、公害防止や環境保全に対する「基本的考え方」、そういったもの一つ一つは、現在わが国の骨材生産活動に係るものと少しも変わるところはない。従って今回の調査旅行においては、率直にいって、新しい知識や手法を吸収することはできなかった。むしろ個々の技術や機械設備については、われわれの方が進んでいるとさえ思えること(たとえば爆砕量トン当り火薬使用量などの点で)、あるいは能率のよい「新型機械」使用率が高い(ヨーロッパでは、山砕切羽の積込みはほとんどパワーショベル、陸砂利採取はクラムシェル式)ように見受けられた。

第4・1図 切羽設定位置の相違(模式図)
第4・1図
切羽設定位置の相違(模式図)

また一方、西ドイツ、ベルギーおよびオランダ、それと英国の、北部ヨーロッパの地形と山砕原石山所在地との関係を考えてみよう。日本では一般に平野につながる「山地」の一部に切羽を設定せざるを得ないことが多いのに対して、平野と山地の間に存在する広大な台地、または準兵現地に原石山を選択することができる。その関係を模式的に示したのが第4・1図である。

平野面積(海抜100m未満の部分)の広さもさることながら、台地または準平原地面積が広いということは、人間の生活に直接必要な「有効土地」面積が大きいこと、したがって、都市や村落、農場などが十分に分散できるので、人口密度が日本と同じ位い高いにもかかわらず、「過密」さを感じさせない。それ故、砕石場はもちろん、砂利採取場も集落から離れたところに、ほとんど自由に設定できるから、第三者によって生産活動が制約を受けることもない。そういった、いわば「自然の恵み」が、ヨーロッパの骨材産業の大きな利益をもたらしているのに対して、わが国の場合はまったく逆であること、それは如何ともし難い宿命であるかも知れない。

第4・2図 邸宅(?)を思わせる砕石プラント建屋(西ドイツ)
第4・2図
邸宅(?)を思わせる砕石プラント建屋(西ドイツ)

しからば、生産者側にそれ程恵まれた環境に置かれていながら、何故にプラント建屋を密閉し、集じん機をつけ、道路を舗装しているのだろうか。この点に関して彼等の見解を聞くと、きまってこう答える。「問題が発生してからでは、もっと金が掛る。」

つまり、製品コストに加算される対策費や設備費は、現在では確かに大きな負担になるが、これから先、何年か経てば、それらは必ず還元できるし、設備も償却が終れば「タダ」同然だ、ということなのだ。「コスト」とは、その工場が続く限りの間に要した総金額を、総生産量で割ったもの、という考え方を多くの骨材生産業者が認めている。

同じようなことが、設備や機械類の価値観にも強く現われている。つぎはぎだらけのベルトコンベア、製造年月日から推して10年以上は使っていると思われるクラッシャや篩設備、日本ならば遠の昔に「お倉入り」となるような、サビ止めペンキでまだらになったショベルなどが、年生産100万トン以上の大工場においてさえ、堂々と稼働しているのは、決して珍しくない。もちろんその理由は、償却が終った機械を、修理し整備して使った方が、新しいのを買って使うよりも、原価の面で有利だからである。原価に不利をきたさない限り、機械や設備は使えるだけ使うという、ヨーロッパ式「ケチ」精神を、われわれは、まざまざとみせつけられた。

だから彼等は、彼等が新型設備や大型機械を保有していることを、あまり誇りとしていない。相当な地位の人がポンコツ寸前のような自家用車を平気で運転し、長い吸いかけ煙草を無造作に捨てないヨーロッパ人の特殊性は、骨材の生産という場においても現われている。プラントの密閉化をおこなうもう一つの理由として、「機械や設備を風雨の侵食から護って、耐用年数を長くするためにもそれは必要である」、という意見もあったことを、蛇足ながら付記して置く。

特に砕石場の場合、そのほとんどが自社経営のよるアスファルトコンクリート、または生コンクリートプラントを持っている。これはつまり、自社の骨材に最も適したアスファルトまたはセメント混合を行なって、骨材製品を有効に「製品化」するための、一種の自己防衛手段なのである。こうした発想は、骨材という「規格」を作るのではなく、骨材を使った「材料」が、ある種の目的に適合すればよいという大前提に基くことはいうまでもない。

それ故、われわれが最も処理法に困惑している「ダスト」についても、アスファルト舗装のフィラーはもちろん、アスファルト混合量を、用その物に適合するように調整しさえすれば、アスファルトコンクリート用細骨材として立派に使えるはずだ、というのが大方の主張であった。石灰岩混入の多い砂利はあまり強度を必要としない生コンクリート用骨材とする、角張って硬度の大きいスチールスラグは、高速自動車道の表層用骨材にまわす、そして一般の市町村道の舗装用骨材には、砕石ダストを砂の替わりに使って問題はないという具合である。製品を格一化してロスを生むような愚行が、これといった資源をあまり持たないヨーロッパの人達には、耐えられないことなのだろう(この項については「骨材資源誌、Vol.6,No.22”天然骨材を十分に利用するための提言”を関連記事として参照頂ければ幸いである)。

そしてもう一つの特徴として、工場や採掘場の生前とした「清潔」さをあげることができる。プラントは努めてコンパクトに(もちろん密閉式で)作り、コンベヤ・ラインも、可能な限り建屋内に置いて、「タコの足」のように屋外に張出させる「日本方式」は、ここではほとんど見かけることができない。製品貯蔵も、いわゆる「ストック・パイル」方式ではなく、密閉槽式である。それ故に積落した製品が、構内に雑然と散乱しているといった光景もない。ベンチ上は整頓され、歩行、運搬機類の走行も容易である。コンベヤ下や工場建屋の床上は清掃され、休止中の掘さく機械や重機類は、すべて所定の場所に置かれている。

作業のし易さを常に保ち、余力をもって稼働しているというのが、いつわらざる感想であった。
掘ったら埋め戻す、あるいは次の利用目的のために整備しておく。われわれが最近になってようやく気付いた問題を、ヨーロッパではすでに以前から実施の段階に入っていたことは、前にも述べた通りであり、その事実に対しては、率直に賛辞を提すべきであろう。

採掘に伴なう環境破壊を、避けて通ることはできないが、必需品である骨材の採取も、また中止するわけにはいかない。しからば如何なる対策を講じるべきか。国民共有の財産(骨材)を採掘して利益を受けた者が、その利益をもう一度国民共有物として還元するのは当然、という基本的考え方が、採掘跡をレジャーランド、農地、住宅地などへ改装する方向に移行していったことは、協会からの資料や、案内してくれた業界首脳者の説明からも明らかである。

またそのために要する資金の裏付けを、あるいは利益金の一部積立方式、あるいは「改装費に還元することを前提とした」徴税方式によって確保させ、使用するという合理主義も、われわれは是非導入したいものである。「自分の土地」の破壊は許さない、然し必要な骨材は「他人の土地」から採掘してこれに充てる、といった「環境保全主義者」が増えつつある現在、ヨーロッパ式合理主義の再評価を、特に強く訴えたい。

骨材産業に、「公害の元凶」というレッテルを貼らせないための努力は、一般住民に対する正しい啓蒙運動の浸透によって、大きな援助を得ることになるだろう。アルカリ調査官(Alkali Inspector・英国)や、鉱山監督官(Ingeneur de Mine・ベルギー)といった国家機関員による一本化した監督指導、あるいは企業自身が積極的に公害防止専門技師を雇用して、規則や法令を確実に実施する努力はもちろん必要だが、骨材が如何に国民生活に貢献しているか、そして骨材を確保するためには業界はどのような事業を行なってきたかを、協会などの機関を通じて広く国民全般に知らしめる段階が、すでに来ているのではないだろうか。

いまわれわれに欠けているものは、知識でも技術でもまた資金でもない。「やろう」とする意思と「実行」に移す勇気だけだと思えるのである。

第4・3図 整備された広いベンチ(英国)切羽端上部の石の列は墜落防止のための標石
第4・3図
整備された広いベンチ(英国)切羽端上部の石の列は墜落防止のための標石。
第4・4図 アイスパレス(スイス・ユングフラウ)内の落書
第4・4図
アイスパレス(スイス・ユングフラウ)内の落書(落書は日本字ばかり。自らの心の中にある”公害的要素”を日本人がどう処理するかも今後の課題だろう)

〔担当・岩崎 孝〕

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